前回では、肝臓の働きについて主にお話しました。
糖質をはじめとする口から取り入れたエネルギーの管理をするのが肝臓で、まさにエネルギーの財務省ともいうべき精密さで、体内のエネルギーバランスを絶妙にコントロールするのでしたね。
今回は一歩進んで、糖尿病との関係をより詳しく見ていくことにしましょう。
糖尿病と肝臓の密接な関係 その2
「ペットボトルシンドローム」という言葉をごぞんじでしょうか?
これは、2型糖尿病が注目されだした15年くらい前と、コンビニなどで清涼飲料水が爆発的に売れ出した時期を重ねて、2型糖尿病の発症原因をソフトドリンクに使用されている砂糖や果糖・ブドウ糖液やファストフードやスナックの食べすぎと関連付ける考え方です。
一見、糖質のとりすぎが高血糖をまねき、糖尿病を発症してしまったと考えられそうですが、研究者の中にはこの件を、肝臓がダメージを受けてしまったために糖尿病を引き起こしたのだと考える向きがあります。
米国では糖尿病患者は非糖尿病者と比べて肝臓病になりやすく、肝臓病が死因になることが多いといいます。1型糖尿病と肝臓病がリンクしているという研究もあります。肝臓のダメージと糖尿病がリンクしているというわけです。
これらを紐解く鍵は、「脂肪肝」にありました。脂肪肝というと呼んで字のごとく、脂質をとりすぎたために起こる状態と思われがちですが、そうではありません。
脂肪肝は、脂質だけでなく、糖質のとりすぎによっても引き起こされるということがわかっています。糖質は体内に入ると、腸などの消化管の中で果糖とブドウ糖という2種類の単糖に分解され、これらは別のものとして消化吸収されていきます。ブドウ糖は血液中に出て、全身の細胞をめぐってエネルギー生産に使われる一方で、果糖は肝臓だけで代謝されるのです。
また、ブドウ糖の場合は代謝経路が数段階で制御されていますが、果糖では中性脂肪合成までノンストップで進行します。果糖のとりすぎにより中性脂肪が合成され、この脂肪が肝臓の中に溜まると脂肪肝になりやすいのです。そして清涼飲料水などに高果糖ブドウ糖液糖がよく使われています。
さらに果糖には食欲の抑制の仕組みがないことがわかり、近年になって「肝臓で余った果糖は脂肪になって蓄積し、脂肪肝などにつながる」といわれるようになりました。そして米国では「高果糖シロップを与えたラットは、高脂肪食を与えるよりも体重が増え、中性脂肪も多くメタボになった」等、果糖のとりすぎが生活習慣病につながるという推論を裏付ける結果が出てきたわけです。
とはいえ、脂肪肝が即糖尿病につながるという証拠はなく、ニ者の関係解明は一筋縄ではいきません。一つの仮説は脂肪肝が肝臓のインスリン抵抗性を高めるのではないかということ。脂肪肝になると、血液中の糖に対する反応が鈍くなってしまうために、肝臓はブドウ糖放出を続けてしまい、血糖を上昇させてしまうのではないかということがいわれています。
米国では成人の20%、糖尿病患者では30〜80%に脂肪肝があると見なされており、糖尿病と脂肪肝の関係が密接なのは明らかです。
糖尿病患者が肝臓を守るには
運動療法や食事療法といった、糖尿病の普遍的な治療が肝臓保護のために有効なのは言うまでもありませんが、ここではそれ以外の肝臓を大切にするための日常ケアをご紹介していきましょう。
●肝臓ケアその1半身浴で肝臓の血流をよくしよう
肝臓の血流を良くすることで、働きを円滑にさせることができます。
ただし、湯船に首まで浸かると水圧の影響で肝臓の血液が流れ出てしまいますので、みぞおちの少し下位までの半身浴が肝臓に理想的な入浴方法です。
また、半身浴は全身浴に比べ心臓への負担が少ないため、長く使っていても苦しくないのが特徴です。40℃位のぬるめのお湯に、少し汗ばんでくるまでゆったりと浸かりましょう。寒い時は、お湯に浸したタオルを肩に掛けたり、温水のシャワーを肩にかけて入るとよいでしょう。
肝臓は温めると働きが良くなるのです。ちょっとした豆知識ですが、二日酔いの予防や症状緩和には、カイロなどで右腹上部の肝臓部分を暖めて血流量を増やしてやるのが効果的です。
●肝臓ケアその2「目には目を」「肝臓には肝臓」を
肝臓の働きを高めるには「アラニン」とわれるアミノ酸の一種が有効であることがわかっています。シジミにもアラニンは豊富ですが、さらによいのがホタテ。アラニンが豊富で、たった2個食べるだけで、シジミ汁10杯分のアラニンを摂り込めます。干し貝柱でもOKです。
もちろん、肝臓に良いことで知られるレバーにも豊富に含まれています。
「肝臓には肝臓を」というわけではありませんが、レバーは肝臓に理想的な食材です。レバーはアラニンをはじめとする必須アミノ酸を豊富に含み、各種ミネラルやビタミンB群を効果的に摂ることができる「強肝食」といわれています。
●肝臓ケアその3「タウリン」の摂取も有効
最初にお話したように、肝臓で作られた「胆汁」は腸で分泌されますが、肝臓が弱ると胆汁の生産力が低下してしまうことがあります。
そこで、胆汁の原材料である「タウリン」を摂取し、胆汁摂取を助けることで肝臓の機能を保護することができます。
実際にタウリンは医薬品としても肝臓病に処方されています。タウリンが豊富な食べ物の代表格はカキですが、胆汁生産を高める十分な量をカキで摂るには11個分にも当たります。一方ボイルしたイカのゲソには、わずか3本分でカキ11個分に当たるタウリンが含まれています。
●肝臓ケアその4鉄分のとりすぎは“NG“
もともと肝臓は血液の材料として鉄を貯めているところです。しかし鉄が多くなりすぎると活性酸素が発生して、炎症が起こりやすくなってしまいます。鉄分が多い食品は、健康な人の貧血などを防ぎますが、肝臓が悪い人は炎症をより悪化させてしまうおそれがあります。シジミ、はまぐり、魚の血合いの部分や、赤肉類などは、鉄分が多く含まれています。
今回のまとめ
肝臓と糖尿病の密接な関係についてお分かりいただけたでしょうか。体内の消化や代謝を司る肝臓の機能が失われると血糖コントロールが著しく乱れる可能性があるということ、そして脂肪肝と糖尿病の間には密接な相互関係があるということをふまえ、普段から肝臓を大切にした生活を送りましょう。
・糖質は分解されると果糖とブドウ糖にわかれる
・果糖は肝臓で直接分解されるため、とりすぎると中性脂肪を溜め込みやすくなる
・その結果として、脂肪肝をまねきやすい
・脂肪肝と糖尿病の間には密接な関係がある
→ 関連項目 糖尿病と肝臓のお話 -その1
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