前回は、糖尿病における男女の性差について着目しました。
2型糖尿病では女性より男性の方が、1型糖尿病では男児より女児の方がそれぞれ発症率が高いのでしたね。
また、女性はホルモンバランスのために血糖値が変動しやすいということを説明しました。
今回はさらに一歩進み、合併症について考えていきます。
女性のほうが動脈硬化になりやすい理由
糖尿病の合併症の大きなものの一つに動脈硬化があげられます。
血管が詰まってしまうために心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなってしまうのでしたね。
ある研究者が、脳卒中のリスク因子としての糖尿病について、性差による違いがあるかどうかを調べたところ驚くべき結果が得られました。
なんと、男性よりも女性のほうが脳梗塞のリスクが高いというのでした。
結果を踏まえて研究者は「糖尿病をもつ人の脳梗塞のリスクは、男性よりも女性で有意に高い。性差はその他の主要心血管リスク因子とは独立していることが示された」といっています。
すなわち、統計的に女性のほうが男性よりも脳梗塞リスクが高い、と証明されたわけです。
ちなみに、心筋梗塞の危険因子については男性の場合、高血圧の人は5倍、喫煙者は4倍、糖尿病に人では2〜3倍発症率が跳ね上がるといわれています。
女性の場合は、高血圧の人は5倍と、こちらは同じですが、喫煙者は8倍と倍に跳ね上がり、糖尿病ありでは6倍と、男性に比べ3倍もリスクが高まっています。男性に比べて女性のほうが、動脈硬化などの合併症が起こりやすいのは間違いがなさそうです。意外ですよね。
しかし、これはなぜでしょうか?
一つの仮説に、女性の閉経にまつわるホルモン変化があげられます。
前回お話したように、女性の場合エストロゲンというホルモンが、インスリンに対する感受性を高めてくれますので、2型糖尿病の発症は男性に比し低いです。しかし、閉経以降は、女性ホルモンの恩恵にあずかれなくなりますので、徐々に男性同様に糖代謝異常が忍び寄ってくるというわけです。
更年期には、女性ホルモンの不足により高脂血症だけでなく高血圧も急増します。また更年期障害が生じ、それがしばしば交感神経の緊張状態を引き起こします。この交感神経の緊張が、更年期の血圧をさらに引き上げる原因となります。
高脂血症と糖尿病が合併すると動脈硬化が相乗的に悪化することは広く知られています。このように、閉経後の女性はホルモン分泌が変化するために、男性以上に動脈硬化などの合併症が起こりやすくなるのです。
性差を考慮した治療─性差医療へ
以上のように、糖尿病における性差は明らかに実在します。しかし、これまでは男性が基準だったので、女性にとっては治療法や診断方法が最適ではなかったということになります。
糖尿病だけでなく、これまでの医学は成人男性を標準として、病態や診断方法、治療方法などを確立してきました。しかし近年では、同じ疾患でも男女差が認められる場合があること、同じ医薬品でも効果に男女差がみられるものがあることなどが明らかになりつつあり、性差が認められるようになってきています。
そこでささやかれ始めたのが「性差医療」という言葉です。性差医療とは、これらにおける男女差を研究し、医療に反映させようという試みをさします。
その同一線上において「糖尿病と女性のライフサポート研究会」という会が、2014年10月に設立されました。
この研究会は、ライフサイクルを通じて、糖尿病とともにある女性と家族の、健康や生活がより快適となるためのサポートの実践と、より良いサポートの開発を目指している組織です。
せっかくですから活動内容についても触れておきましょう。活動の一環として開催しているのが「糖尿病をもつ女性と看護職者の
ためのセミナー」。第1回が2009年1月に福岡市で開催されたのち会を重ね、第11回は2017年3月に東京で開催されたそうです。
糖尿病の女性の性に関する疑問や、妊娠・出産に関する悩みについて、看護職の女性がともに語り合いながら支援のあり方について考える会となっています。
この会が発足された理由は、糖尿病とともに生きる生活を女性の視点から向上させる活動を展開していきたかったからとのこと。
同研究会は「糖尿病とともにある女性」を、糖尿病をもつ女性だけでなく、糖尿病をもつ男性のパートナーである女性や母親などの支援者などを含めて捉えています。患者にとどまらず幅広い女性を対象としているわけです。
ご存じのように、慢性疾患である糖尿病は、常日頃から血糖値の良好な管理が欠かせません。月経周期や妊娠・出産等のライフイベントを抱えながら、糖尿病がもたらす悩みや不安を抱く女性は少なくないようです。
また糖尿病をもつ女性ならではの体や心についての悩みを支援する体制も十分には整備されていませんでした。
性ホルモンの分泌が盛んとなる思春期から、妊娠・出産期、更年期まで、そのときどきに応じた細やかなケアを行うことで初めて、男性と同等の治療が受けられるといってもいいでしょう。
女性ばかりにフォーカスをしてしまいましたが、男性特有の症状としては神経障害に付随する勃起障害(ED)にも注目が集まっています。
何故ならば、糖尿病男性患者の3人から2人に一人はEDの自覚症状がみられるともいわれており、快適な生活を過ごすうえで無視できない問題となっているからです。
EDは男性にとって深刻な問題です。最初はちょっとした機能障害として発症しても、それによって心理的なダメージを負い、それを引きずらないとも限りません。
そうなると糖尿病が改善したとしても、簡単には治りません。そのためEDの治療は、糖尿病内科医だけでなく、男性機能の専門家でもある泌尿器科医などとともに行われるようになってきています。
今回のまとめ
「男女の間には深くて暗い河がある」という歌がありましたが、そのとおりかどうか、男女はそれぞれの体の機能が異なるために、糖尿病と一口にいってもその反応や治療法は均一にはなりえません。
よりオーダーメードの医療となるためには、性差をしっかりと考えた治療が必要となっていくのでしょうね。
・女性は、男性に比べて糖尿病合併症である動脈硬化の罹患率が高い
・その理由として、閉経に伴う女性ホルモン減少等があげられる
・糖尿病をもつ女性を対象とした会など、性差医療の実践は増え
てきている
・男性の場合もEDなどは、チーム医療などを受け適切に治療を受ける必要がある
→ 関連項目 糖尿病−家族や周りのサポートについて-その1
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