糖尿病を患う人にとって「糖質制限食」とは目新しいものではな
いかもしれません。しかしながら、糖尿病でなくても、健康に気
をつかう人たちから熱い注目を浴びているのが、糖質制限食なの
です。
「糖尿病じゃないのに糖質を制限してどうするの?」と思うかも
しれませんが、糖質制限食は単なるブームを超えて、確立された
健康法の一つになっているのです。
いったい、糖質制限とはどんなものなのでしょう。そして、気に
なる糖尿病との関係は?
話題の糖質制限についてクローズアップしましょう。
糖質制限とは?
糖質制限は、もともと食事療法の一つとしてアメリカで生まれま
した。厳格な定義はなく、ご飯やパンなどの主食や、野菜などに
含まれる糖質の摂取量を制限するものが主でした。当初は主にダ
イエットを目的として行われていましたが、今では自分の健康を
気遣う人や太りたくないという人の間でも、一つの「健康食」
「美容食」として取り入れられつつあります。
糖質制限はどのように行うのでしょうか?
たとえばダイエット目的の糖質制限食であれば、主食をとらずに
おかずだけを食べるなどして、糖質の摂取量を減らします。特徴
は、全体のカロリーや、たんぱく質や脂質など、ほかの栄養素の
摂取量は制限しないことにあります。
夕食でいつも白米を茶わん1杯ずつ食べていた人が、これをやめて
おかずのみにするなどです。その代わりおかずは制限しません。
全体的なカロリー制限をしているのではなく、糖質のみをカットし
ほかの栄養素を増やしている点が従来のカロリー制限型のダイエッ
トと大きく異なるところです。
糖質制限食は名前こそ新しいものの、ダイエット界では古くから
ある方法の一つです。最も古いものの一つが「アトキンスダイエッ
ト」と呼ばれるもの。これは20年以上も前にロバートアトキンス
という人が考案した糖質の摂取量を控えるダイエット法です。
「低炭水化物ダイエット」や「ローカーボダイエット」と呼ばれ
ることがあります。アトキンスダイエットは「糖質の摂取量を減
らすことで脂肪をエネルギー源とするようになり、体脂肪を減ら
すことができる」という理論に基づいていいます。
ドクターアトキンスの説明はこうです。人間はふつう糖質を摂取
すると血糖値が上昇し、インスリンというホルモンがすい臓から
分泌されます。インスリンには血糖値を下げる働きがあるため、
たくさん糖質をとると、比例するようにインスリンもたくさん分
泌され、細胞にブドウ糖が取り込まれます。しかし、筋肉中に蓄
えきれなくなると、脂肪細胞に中性脂肪として蓄積されてしまい
ます。これが肥満を招くのです。
また、インスリンがたくさん分泌されるとインスリン抵抗性といっ
て体がインスリンに慣れてしまい効きにくくなるので、インスリ
ンを多く作るようになってしまいます。結果、体脂肪がさらに蓄
積されやすくなってしまうというわけです。もっと悪いことにイ
ンスリンが多く作られるために糖分解がすすみ、一時的に低血糖
になってしまい食欲が増進されて肥満をさらに悪化させてしまう
のだそうです。
このことから、糖質の摂取を減らして血糖というエネルギー源が
体内に不足した状態を作ることで、脂肪を燃やしやすい状態を作
ろうとしたのです。ドクターアトキンスはこれによって体脂肪を
蓄積しやすい体質を改善できると考えたのですが、実際にアメリ
カではアトキンスダイエットで成功した人が続出し、一躍ブーム
を巻き起こすまでになりました。
一連の説明を読んで、「なんだ、糖質制限はとってもいい方法じゃ
ないか」と思われる方も多いでしょう。しかし、これには思わぬ
落とし穴があったのです。その後しばらくして、糖質摂取量が少
なすぎることによる副作用が生じることがあると報告されるよう
になったのです。
糖質制限と糖尿病の気になる関係
食事から糖質を極端に減らした場合、当然ながらインスリンは分
泌されず、また血中から糖もなくなってしまいます。すると、体
はエネルギーを作り出すために体内に蓄積された脂肪を溶かすよ
うになります。これによって分解された脂肪を「ケトン体」と呼
びます。糖質制限を続けていると、血糖がないために、血液中に
ケトン体が増えていきます。このような、脂肪を分解しケトン体
がエネルギーとして使われている状態を「ケトーシス」と呼びま
す。
これが行き過ぎると、ケトアシドーシスという状態になります。
アシドーシスとは、酸性の意味です。ケトン体は強い酸性物質で
あるため、どんどん産生されるがままにしておくと、血液や体液
中の酸性が強くなりすぎることがあるというのです。
ケトアシドーシスは、このように厳しい糖質制限をした時や風邪
やインフルエンザなどの感染症にかかっている時や、強いストレ
ス下にある時などにも起こります。これは大変危険な状態で、細
胞が損傷を受け、脱水が加わると意識障害を起こすこともありま
す。だから、過度な糖質制限は禁忌とされるようになりました。
いまではアトキンスダイエットは下火になっています。
さてこの、「ケトアシドーシス」という言葉にピンと来た方もい
るかもしれませんね。そう、糖尿病の方におなじみなのが「糖尿
病性ケトアシドーシス」という症状。主に1型糖尿病患者に起こり
ますが、2型であってもインスリンが不足した状態で糖代謝ができ
ない場合に起こります。インスリンがなく糖代謝ができないため
に、代わりに脂肪の代謝が亢進し、ケトン体が作られるのです。
こちらも同様に、最悪の場合意識障害が起こります。
一般の人に比べて、糖尿病がある人はインスリンの分泌が不十分
であることがわかっています。そのような状態で厳しい糖質制限
を行ってしまったらどうなるでしょうか。ケトン体が多くなり、
一般の人よりもはやくアシドーシスを引き起こしてしまうことは
想像に難くありません。
このことから、糖質は制限すればするほど痩せるというわけでな
く、体にとっては負担となることがあるようです。インスリンの
分泌が不安定な糖尿病患者で、インスリン療法を行っている場合、
自己流で行える方法ではないということになります。実際に日本
糖尿病学会は、腎症や脂質異常症を合併している糖尿病患者にお
ける糖質制限のリスクについて述べています。
ただし、糖質を控え目にすべきことは言うまでもないことです。
ですから、糖質制限を否定しているわけではありません。インス
リン療法を行っている糖尿病の方が極端な糖質制限をする際は、
医師に相談するようにしましょう。
今回のまとめ
一見「痩せられて、脂肪も燃焼できる」と思える糖質制限食です
が、長期間にわたり、あまりにも厳しくしてしまうと、リスクが
あるようです。
特にインスリン療法を必要とする方は、注意が必要ですね。
・糖質制限食は、カロリーを抑えず糖質を制限するダイエット方法
・近年は健康法の一つとして広く受け入れられ始めている
・しかし、あまりに厳しくやりすぎると危険な状態になることも
→ 関連項目 糖尿病-ちょっとした風邪が大変な事態に!?-その1
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