「運動が必要なことくらいわかってるよ。なにをいまさら」
「今は時間がないからできないだけさ」
なーんて声が聞こえてきそうですね。
いまや、運動の必要性を理解していない人はいないでしょうから。
でも、だからこそ「耳にタコ」のように、慣れっこになってしまっているかもしれません。
今日はこれまでにない新しい切り口で、「運動と糖尿病」についてお話します。
きっと新鮮な気持ちで運動と向き合えることまちがいなしですよ!
糖尿病患者の運動療法の実態は?
糖尿病を抱えている人にとって、運動療法が大切なことは言うまでもありません。しかし、それを満足にできていないのも事実。
実際のところ、普段どれくらい運動をしているのでしょうか?「数字にすると現実が見えてくる」といいますが、ここは一つ客観的な数字で、糖尿病と運動の関係を見ていこうではありませんか。
日本人で糖尿病を患っている人を対象に行った調査によれば、「あなたは通院している医療機関で運動療法の指導を受けていますか?」という問いに対し、「継続的・定期的に受けている」と答えた人は全体の25%。「不定期に受けている(28%)」と合わせると、全体のうち、ほぼ半数が指導を受けていると回答したことになります。
では、これらの運動療法の指導を受けた人を対象に「どのような運動指導を受けていますか?」と尋ねました。もっとも多かった回答は何だと思いますか?
正解は「ウォーキング」。ダントツの85%です。
ついで、ストレッチや柔軟体操が17%、サイクリングが11%、ラジオ体操/テレビ体操が9%、ジョギングが7%と続きます。運動療法を薦められた人の大半が、ウォーキングを指導されているという現実が見えてきます。
そして、ズバリ「あなたは運動療法を行っていますか?」という問いに対しては、「毎日」と答えた人は4割にとどまりました。
「週に2から3回程度」が26%、ついで「気分次第」が12%、「体調がいいときのみ」が10%となりました。
「まったく行っていない、やる気なし」という人も6%いました。運動指導を受けながらも、毎日運動をしているという人は半数以下に過ぎなかったのです。
これは、思った以上に深刻な事態です。40代から60代の2型糖尿病患者400名に聞いた「糖尿病治療に関する患者の意識と実態調査」によれば、「運動療法の実行は糖尿病患者さんにとって負担」と結論づけています。
医療者側もこの事態を深刻に捉えています。日本糖尿病療養指導士認定機構が出したレポートによれば糖尿病患者の運動療法実施率/継続率は「40から60%にとどまる」とのこと。また、アメリカの糖尿病協会は、運動療法実施時に推奨される、150分/週以上の運動量を週3回以上行っている人は、3割にも満たないと発表しています。
つまり、患者、医療者、そのだれもが糖尿病の治療のために運動が欠かせないということを知っていながら、実際には必要な運動を行えていない、というのが今の状況なのです。
われわれは、なぜ運動をしなくなったのか?
ここで少し見方を変えてみましょう。
そもそもなぜ糖尿病患者がここまで増えたのでしょうか?
糖尿病はぜいたく病、と聞いたことがある方もいるかもしれません。飽食の現代だから増えた、という考え方です。
たしかに現代は、コンビニがあらゆるところに乱立し、いつでもどんな種類の食べものでも簡単に食べられるようになりました。食事のメニューも欧米化しています。
しかし、現代において糖尿病の人が増えたのには、もう一つ大事な点があります。それは、現代人は昔の人に比べて大きく運動量が減少しているという点です。
理由は十分に想像できますね。車、電車やバスなどの公共機関の発達によって、私たちは自分の足を使って歩くことを極端にしなくなりました。
本や洋服など買いたいと思えば、わざわざ出かけてショッピングするまでもなく、椅子に座りインターネットを見ながら簡単に注文することができます。
美味しい食事も電話一本で届けてくれるようになりました。文明の発展により、私たちはこれらの便利さを手に入れました。しかしそのかわりに、私たちは自分の手や足を使い運動する機会を著しく失いました。
東京がかつて江戸であった時代の話です。この時代は、馬を使う以外は、原則的に歩くほか目的地には行けませんでした。もちろん、馬やかごを使って移動ができたのはほんの一握りの方です。ある試算によれば、この時代の人は1日10キロ前後、1万五千歩近く歩いていたとのことです。これは消費カロリーにして600kcal程度。時間にして1時間半前後です。
「なんだそれくらい、私だって運動するときはそれくらい歩くよ」という方もいるかもしれません。でも考えてみてください。当時はそれは意識された運動ではなく、普通の生活だったのです。現代人で日常の移動のためにこれだけの時間を歩くという人は、ほぼいないでしょう。
われわれが自家用車に乗って移動するのと同じ感覚で、昔の人は当然のようにこれだけの運動をしていたというわけです。
われわれは科学技術の進歩によって多くの恩恵を受けていますが、「日常の運動量」という点では、明らかに健康上の損失を被っているのです。
昔から「楽ばっかりしていてはいけない」といいますね。
それは運動と糖尿病の関係にあてはまりそうですね。
今回のまとめ
・運動療法を指導されたことのある人は全体の半数程度
・毎日運動している人は4割以下
・必要な強度の運動を行えているのは3割以下に過ぎない
・われわれは時代の発展とともに運動の機会を失ってきた
→ 関連項目 糖尿病とスポーツ その1
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