お医者さんと上手に付き合うために -その②

お医者さんと上手に付き合うために -その②

前回は「患者─医療者関係」を患者の立場からご紹介しました。

こちらの意見を聞いてくれず、頭ごなしに治療方針を押しつけられたり、プライバシーを尊重してくれなかったり、また逆に治療方針があいまいだったりすると、患者の側の不満はたくさんでてきますね。

では、今回は少し視点を変えて、医療者から見た患者との関係についてお話ししましょう。

なぜなら、よりよい「関係」とは、双方の意見を聞いて初めて成り立つものだからです。そのためには相手の立場に立つことが欠かせません。
普段なかなか聞く機会のない、「医療者のホンネ」を考えてみましょう。

では、どうぞご覧ください!

医者のキモチ

U医師(40代・男性)

「外来診療はとにかく忙しい。3時間で100人の患者さんを見るとしたら、一人当たり2~3分しかさけないことになりますよね。その短い時間で、一番必要なことだけを聞こうとすると、どうしても言葉が端的になってしまいますし、下手に余計なことを言うとそこから話が広がってしまうので、言いたくても言えないんです。

だから、自然と理解力の高い患者さんを好むようになってしまいました。何度言ってもわかってもらえないと、『もう、あきらめよう』と思うときさえあります。患者さんにとって医師は一人ということはわかってるんですが、こちらから見たら患者さんは100人ですからね……。時間があれば、もっと話を聞くことができるんですけど……」

糖尿病内科などの第一線で働く医師の中には、U医師のようなジレンマを抱える人が少なくないと言います。医師もほかの医療スタッフも「とにかく、時間がない」とくちぐちに訴え、少ない時間の中でなんとか患者を診ようとフル回転します。

そういった時に、「もっと話を聞いてほしい」と思う患者と、「もう話を終わらせたい」という医療者の間であつれきが生じるのかもしれません。

しかし、心の中ではU医師のように「本当はもっとじっくり話したい」と思っている医療者は少なくないようです。その証拠に、総合病院や大学病院を退職して、自分で開業する医師はその理由に、「もっとゆったりと診療したいから」と言うことが多いそうです。

そう考えると、仕事とはいえ医療者も気の毒な気がしますよね。

では続いて、もう一人紹介しましょう。

T医師(50代・男性)

「とにかく前向きでない人が困りますね。そして、受け身の人。糖尿病は生活習慣病ですから、患者さん本人のやる気が一番大切です。それなのに、『病院に来れば治してもらえるだろう』という受け身の姿勢の方は、指導しても受け入れてもらえないため、こちらも次第に何も言わなくなってしまいます。

息の長い治療なので、上り坂や下り坂はあって当然です。それなのに、調子が落ちたときに悲観的になりすぎて、自分で立ち上がろうとしない。正直、そういう人にはかける言葉がないように思います。

その一方で、こちらも感心するくらいに勉強している方もおられますね。そういう人には、こちらも全力でサポートしたくなります。とにかく、『自分が治す』という意識を持っているかどうかは大きな差ですね」

T医師は、糖尿病などの内分泌疾患を長年診てきたベテラン医師。だからこそ、患者側の意欲に対しては厳しいようです。こちらとしては、「落ち込んでいるときほど、医師の一言でやる気になるのに」と思ってしまうのですが、お互いに一歩引いてしまうとうまくいかなくなってしまうようです。

むむむ……不謹慎ではありますが、なんだかこういった微妙な心のやり取りは、まるで「恋愛関係」のようでもありますね。

相手の気持ちをうまく測れなかったためにうまくいかなかったり、逆に考えすぎてしまったり……。

医療者と患者の関係とはいえ、人間関係ですから、そういったジレンマはあって当たり前なのかもしれませんが。

では、我々患者としては、どのようなことに気をつけて関係をよくしていけばいいのでしょう。
ここでは、考え方を変えるための「3つのヒント」を3人の方からお伝えします。

たった3つだけですので、ぜひ覚えて、次回からの診察に役立ててみてくださいね。

誰ですか、「え~、面倒くさいよ」なんて言う人は。

ほら、昔の人が言ったではありませんか、「損して得取れ」と。

最初の一歩はこちらから。それで、快適な関係が手に入るなら安いものではありませんか。

では、まずは一人目の方の工夫をご紹介しましょう。

患者と医者より良い関係を築くために

Sさん(53歳・女性)

「私は、研修医2年目を迎えた甥から話を聞くことで、医者に対する見方が変わり、結果として主治医との関係が良好になりました。

甥の話を聞くまでは、医者というのはどことなく上から見下ろすような感じで、親身になってくれない印象がありましたが、甥によるとそれは多忙なためだそうです。

毎日睡眠が4時間程度で、しかも睡眠中も当直で呼ばれることもあり、ほとんど病院に拘束される生活を送っていると聞いて、大変驚きました。診療中もとにかく、時間に追われてると聞いたので、遅刻しないことはもちろん、予約外の受診は極力避けるようにしました。

そして、外来で何時間も待たされたとしても、その不満を医者に見せないようにと気を付けました。だって、医者のほうが大変なはずですからね。

先日も、2時間半待たされてさすがにイライラしましたが、『今日は急患が多いのかも』なんて考えなおして、診察室には意識して笑顔で入りました。主治医はいつも以上にぶっきらぼうな感じだったので、私も『せっかく待ったのにその態度はないだろう』と思いかけたんですが、そこをグッとこらえて、『先生も大変ですね、忙しいでしょう』と声をかけました。

そしたら、驚いたように手を止めてこちらを見た後に、ハーッとため息をついて、『いえいえ、こちらこそご迷惑をおかけして』とこれまでに見たことのない穏やかな表情を見せてくれました。
心が通じたと思った一瞬でした」

Sさんが実践したのは、待たされてイライラしているという自分の感情を冷静に受け止めたうえで、医者の立場を思いやった言葉がけ。

そのことで医師もハッとして、自分の態度を見つめなおすことができたようです。心が波立っているときに相手の気持ちを推し量るというのは並大抵のことではありません。しかしそのおかげで、Sさんは医師と心の距離を近づけることができたのです。

もう一人ご紹介しましょう。

Kさん(56歳・男性)

「私は、限られた診察の時間を有効に使いたいので、毎回メモ書きを持参しています。旅行に行く予定があるときは前もって、インスリンの打ち方など聞くことをまとめておきますよ。

また、日常のふとした時に思い付いた疑問なんかを書き留めておきます。診察の場になって初めて質問を考えるのでは遅すぎるし、あとで聞き忘れたってことにもなりかねない。それに、あらかじめ話す内容もまとめてあって明瞭なので、医師も答えやすいようです。

初めこそ医師も、メモ書きを読み上げる私を怪訝そうに見ていましたが、最近はそれが当たり前になってきたので、『今日の質問は何ですか』と声をかけてくれます。治療に前向きだと捉えられて、積極的に答えてくれるようになりました」

実際、Kさんのようにメモ書きを持参で行く患者は少なくないようです。そして、医師側にとっても事前に質問をまとめてきてもらえるのは、時間短縮にもなり、的を絞った回答ができるため、おおむね好評です。

また、積極的な治療の意欲があることもうれしいようです。ぜひこれは真似したいですね。

では最後にもう一人、自ら「医者とのコミュニケーションの達人」と自負する方をご紹介しましょう。

Eさん(52歳・男性)

「私がやっているのは、看護師や薬剤師などの医療従事者と親しくすることです。ついつい、医者とのコミュニケーションばかりに目がいきがちですが、実は糖尿病を治療していくうえでは、看護師や薬剤師、栄養士などの助けがすごく大切。

顔見知りのスタッフには、積極的に挨拶するようにしています。すると向こうから『最近、どうですか』と聞いてくるから、ここぞとばかりに自分の状態や悩みを話します。

すると、次の時にはたいてい医者の耳に入っているんですよ。また、『じゃあ、それは先生に相談しましょう』という感じで、スタッフの人が直接医者に聞きに行ってくれたり。おかげでかなり助かっています。

もちろん、看護師には生活のこと、薬剤師には薬のこと、など内容を分けていますよ。『医者以外のスタッフを味方につける』というのは結構有効なので、試してほしいですね」

なるほど。「将を射んとせばまず馬を射よ」のことわざではありませんが、周囲の医療関係者を味方につけるというのも有効な手段のようですね。さすが、達人です。

今回のまとめ

「医療者とのコミュニケーション」と一口に言っても、かかわり方は千差万別。
「これが正解だ」というものはないのです。

だからこそ、ときに悩み、ときに憤りを感じながらも、互いに試行錯誤をして関係を築き上げていくものかもしれません。正解がないゆえに、難しく感じる部分もあるかもしれませんが、ご紹介した3人のそれぞれの取り組みをヒントに自分なりの方法を編み出してもらえたらこんなにうれしいことはありません。

・自分の感情を冷静に受け止めてみる

・不安や不満を口にする前に、相手の気持ちになってみる

・診察の前にメモ書きをしたためてみる

・医師以外のスタッフとも積極的にコミュニケーションをとってみる

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