普段は節約していても、時々「無駄遣い」したくなるもの。
さして必要のない物を買ってしまう。そしてその後は、使わない洋服や物の山がどっさり……。お金の使い方にはうまい下手がありますよね。
「えっ?今日はお金の話?!」と思った方、半分正解です。
高血糖を一瞬にして下げてくれるインスリンは、糖尿病の方にとってお金と同様に大切です。
少々強引な始まりではありますが、今日の話は「インスリンの無駄遣い」について。お金もインスリンも、使い方は「量より質」。
インスリンを無駄遣いせず、賢く使って、健康のために闘っていきましょう。
では、どうぞご覧ください!
※「糖尿病と闘う」とは、食事療法・運動療法・薬物療法を組み合わせて、医師の指導のもとで、糖尿病が悪化しないように真剣に取り組むことを意味します。特定の食品が糖尿病に効くことを示唆するものではありません。
※ご紹介する声は、特定の食品が疾病に効くことを示唆するものではありません。あくまでも、読者の皆さまが医師の指導のもとで食事療法・運動療法・薬物療法に取り組まれた結果です。
インスリンの無駄遣いとは?
健康な人と比べて糖尿病の人は、同じ量のインスリンでも血糖値が下がりにくいことが知られています。また軽症糖尿病と重症糖尿病の人とを比べた場合、同じ量のインスリンを注射したとしても、重症の人のほうが血糖値が下がりにくいことも広く知られています。
糖尿病が重くなればなるほどインスリンの量が増えてしまうんですね。これでは、どんどんインスリンという資源を消費してしまうばかりです。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
まず、体内におけるインスリンの働きから説明していきましょう。
私たちはインスリンがないと、摂取した糖が血液中から細胞内へ吸収されないと思いがちですが、実際には体の多くの細胞がインスリンなしで糖を取りこんでいます。
難しい話になりますが、細胞が糖を取り込むときには、細胞の外側にある膜が糖をひきつけるようにして取り入れます。細胞膜のタイプには5~6種類のタイプがありますが、骨を構成する骨格筋と脂肪組織の細胞膜のみが「グルット4」というたんぱく質をもっており、この「グルット4」だけが、糖を吸収するときにインスリンを必要とします。
簡単にいえば、「グルット4」のある細胞だけがインスリンという鍵がないと糖を中に取り入れることができないんですね。つまりそれ以外は、インスリンがなくても糖を取り入れることができます。
しかし、インスリンを必要とする筋肉や脂肪というのは体の中でも大きな範囲を占めているため、結局は、インスリンが足りないと糖は血液中で大量に余るようになってしまいます。
ところで、インスリンは膵臓のベータ細胞から分泌されていますが、ここには「グルット2」というたんぱく質があります。
「グルット2」は司令塔のような役割を果たしており、血糖値が100mg/dlを超えると初めてインスリン分泌を許可します。そして、100mg/dl以下になるとブドウ糖の取り込みを拒否します。このことからわかるように、グルットというのはいずれも、血液中の
血糖値を上げすぎず、かつ下げすぎないようコントロールしている存在なんですね。
しかし、グルットがインスリンをコントロールしているにもかかわらず、このあとお話しするある理由により、それを受ける細胞のほうがインスリンに慣れてしまうことがあります。以前は10の量で足りたのに、徐々に20になり30になり…。
せっかく、グルットがインスリンの見張りをしているというのに、その量では細胞が満足できなくなってしまうのです。インスリンのバーゲンセールです。これと同じことはしばしばおこります。
たとえば、慢性的に頭痛で悩まされている人がいたとします。最初は少量の鎮痛剤で痛みが取れたというのに、徐々に効かなく量が増えていく…。体が「慣れてしまった」状態ですね。
こうなるとたいへんです。食事のたびにインスリンが大量に必要とされます。そして、いつしかインスリンを作り出す膵臓のベータ細胞が壊れてしまいます。こうなると、もうインスリンを外から補うことしかできなくなってしまうのです。
「最初は少しの量で効いたのに、徐々に量が増えてしまって…」まるでアルコール中毒のようなこわい話ですが、事実このようなことが起きているのです。
インスリンの無駄遣いが起こる理由その1
さて、このインスリンの無駄遣い状態を、「インスリン抵抗性」といいます。抵抗とは「慣れ」のことですね。ではなぜインスリン抵抗性が生じるでしょうか。
理由の一つが「肥満」、とくに内臓脂肪の存在にあります。
人が太ると体積が増えますが、細胞の数は変わりません。代わりに細胞一つ一つが大きくなります。肥満者のもつ肥大した細胞を「大型脂肪細胞」と呼びます。一方、普通体型の人の脂肪細胞は「小型脂肪細胞」と呼ばれています。
糖を取りこむ脂肪細胞というのは、ただのエネルギー貯蔵庫ではなく、いくつかのホルモンを分泌する器官でもあります。しかし驚くべきことに、細胞の大きさによって分泌するホルモンの種類が異なってしまうんですね。
普通体型の人の小型脂肪細胞は、インスリン抵抗性を改善する「アディポネクチン」と呼ばれる物質を分泌しますが、太った人のもつ大型脂肪細胞は、インスリン抵抗性を増悪する「TNFα」「PAI-1」を分泌します。生まれたときは同じ脂肪細胞であったのに、太ってしまったがゆえに危険物質を分泌するようになってしまうわけです。これは恐ろしい!
こうなってしまうと、肥満者の体の中では我慢比べが起こります。大型脂肪細胞はインスリン抵抗性を増加させるべくTNF-αを分泌する一方で、こまった膵臓はとにかく量を増やせとばかりにインスリンをどんどん分泌させます。
不毛ともいえる戦いが行われるわけです。やがて限界がきます。結果はほとんどの場合、膵臓の負けです。何しろ、大型脂肪細胞は全身にいくらでもありますし、太れば太るほど増えてしまいます。しかし、膵臓は一つ限り。膵臓が懸命にインスリンを産生し続けたとしても、それを上回る勢いで大型脂肪細胞がインスリン抵抗性を増すTNFαを分泌し続けるのですから・・・。
こうして、膵臓のβ細胞が傷つけられ機能が低下してしまうのです。
ああ、なんとかわいそうな膵臓…。
今回のまとめ
「インスリン」は、魔法の杖ではありませんし、無限に溢れる泉でもありません。それは、高血糖と戦ってくれる大切な、限りある資源。無駄にせず、少量で効かせるためにはどうしたらいいのか。次回お話ししていきます。
・体内でインスリンの効きが悪くなることを「インスリン抵抗性」という
・肥満の人の細胞からはインスリン抵抗性のある物質が放出される
・インスリン抵抗性が増加し続けると、やがて膵臓機能が衰える
・インスリンは、少量でしっかりと効かせることが大切
→ 関連項目 インシュリン治療の前に
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