糖尿病と肝臓のお話 -その1

糖尿病と肝臓のお話 -その1

「肝心かなめ」という言葉から知られるように、「肝」というの
は物事の本質かつ重要な点を意味しています。それは体でも同じ
ことで「沈黙の臓器」として知られる肝臓は、私たちにとって欠
くことのできない重要な臓器です。

もちろん、糖尿病との関係も深く、近年ではこの2つの関係を掘り
下げる研究も増えてきました。本日はまだ完全には解明されてい
ない、「糖尿病と肝臓のお話」です。

肝臓の働き

最近になって、糖尿病をもつ人はそうでない人に比べて、肝炎や
肝臓がんのリスクが高いことがわかってきました。また2013年に、
日本肝臓学会と日本糖尿病学会の共催企画として、「肝臓と糖尿
病・代謝研究会」が発足しました。このことからも医療界全体
が、肝臓と糖尿病の関係にフォーカスし始めていることがわかり
ますね。

この2つの関係に切り込んでいく前に、まずは肝臓についての基本
的な説明から入っていくことにしましょう。

肝臓は、右肋骨の内側で、横隔膜という胸部と腹部を仕切る膜の
すぐ下にあります。重さは約1.2キロ。意外と知られていませんが、
内臓の中でもっとも大きな臓器です。肝臓には大きく分けて5つの
働きがあります。

まずは、まず消化を助けるための胆汁という消化液を、1日1リッ
トル程作りだしています。

また、口から取り込んだ食物は、ブドウ糖、果糖、アミノ酸、脂
肪酸などとして小腸から吸収されますが、肝臓はこれらをグリコー
ゲンや脂肪酸という物質に変え肝臓内に貯えます。いわば貯蔵庫
のようなもの。

貯められたグリコーゲンは必要な時にブドウ糖に変えられ、体を
動かすエネルギー源となります。脂肪酸の形で吸収された脂肪は、
必要に応じコレステロール、中性脂肪を合成する材料になります。

また、タンパク質は肝臓でアミノ酸から合成され、全身の組織へ
と送り届けられます。その際余ったものはグリコーゲンとして肝
臓に貯蔵されます。また、体脂肪に貯えられていた脂肪は、使用
される際にはいったん肝臓に運ばれてから、かたちを変えてエネ
ルギーとして利用されます。体を支える栄養をお金にたとえるな
らば、肝臓は財務省のような存在。栄養(=お金)の流れを管理し、
必要に応じ貯蔵したり分配したりするというわけです。

また、よく知られているように肝臓には解毒作用があります。た
んぱく質は新陳代謝によって分解され、毒性のあるアンモニアが
生成されますが、これを比較的無害なな尿素という物質に変えて
います。

その他にも毒素やアルコールなども分解し、無害な物質に変えま
す。ほかにも、古くなった赤血球中のヘモグロビンを分解して、
ビリルビンや鉄分を生成するなどの働きがあります。このように、
肝臓には口から取り入れたエネルギーを貯蔵したり使用したり、
解毒したりといった作用もあります。

糖尿病と肝臓の密接な関係

糖尿病と関係の深い臓器といえば、インスリンを分泌する膵臓を
思い浮かべる方が多いでしょう。しかしながら、血糖値を精密に
コントロールしているのは、実は肝臓なのです。

「えっ」と驚かれた方も多いかもしれませんね。これは、先にお
話したように肝臓の役割の一つが、食べものの吸収や利用の管理
や制限を行っている財務省的な立場であることが大きな理由を占
めています。

具体的に見ていきましょう。健康な人が食事をし、炭水化物(糖質)
や脂質を取り入れると、小腸からインクレチンというホルモンが
分泌されます。これがサインとなり血糖値が上がるのと同時に膵
臓から継続的にインスリンが分泌されます。この働きについては、
本メルマガでもなんども説明しましたね。

しかし実はここで肝臓は大きな働きをします。食後インスリンが
分泌され、血中インスリン濃度が高くなると、肝臓は血液中にブ
ドウ糖がたくさん余っていると判断します。そこで血中ブドウ糖
を取り込んで、肝臓の中にグリコーゲンという成分を合成して蓄
えます。余分なブドウ糖の貯蔵庫です。

もちろん貯蔵できる量には限りがあります、最大でも肝臓の重さ
の10%まで、これは体が必要とする1日分のブドウ糖にも満たない
程度で、決して多くはありません。

このようにして、ブドウ糖が肝臓に貯蔵されると、当然ながら血
糖値が下がり、それにともないインスリン濃度も下がります。す
ると今度は逆の現象が起こります。すなわち、肝臓は、今度は倉
庫からブドウ糖を放出しなくてはと考え、貯蔵されていたグリコー
ゲンをブドウ糖に戻すホルモン「グルカゴン」などを分泌し、血
液中のブドウ糖の量を増やすというわけです。

この絶妙な働きこそが、「エネルギーの財務省」である肝臓の働
きです。インフレ(高血糖)にもデフレ(低血糖)にもしない絶妙な
コントロールこそが財務省(肝臓)の腕の見せどころなのでありま
す。

しかしながら限界があります。それは、貯蔵されるグリコーゲン
は12〜24時間しかもたないということ。それ以上の時間新たに供
給がないと、もはやグリコーゲンは使えなくなります。代わりに、
体は大切なタンパク質を分解して脳や赤血球が必要とする最小限
のブドウ糖を作って生命を維持するようになります。

皮下脂肪や脳といったあらゆるところからエネルギーをかき集め
てきます。そして大事なことは、この極限状態での血中ブドウ糖
の維持・産生もまた、肝臓にしかできないということです。

つまり、脂肪肝や肝硬変、肝がんといった何らかの理由で、肝臓
にダメージが加わると、とたんに栄養素の代謝、ひいては血糖コン
トロールが難しくなるということなのです。

今回のまとめ

肝臓が、「沈黙の臓器」といわれるゆえんはひとえにその働きに
ありました。体の中でもっとも重いその臓器は、口から取り入れ
られる食物の体内でのコントロールを一手に引き受けているがゆ
え、糖尿病とは切っても切れない関係にあるというわけなのです。

・肝臓は、エネルギーの貯蔵や解毒といったいくつかの働きがある

・血糖レベルに応じ、取り込んだブドウ糖を放出したり貯めこんだりする

・グリコーゲンの貯蔵は、24時間までしかもたない

→ 関連項目 糖尿病と免疫のお話

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