前回は、糖尿病性神経障害のひとつ「胃無力症」についてお話ししました。
自律神経の障害によって適切に消化ができなくなるため、血糖値やインスリンのコントロールが難しくなるという点で、要注意の合併症であるとお話ししましたね。
今回は、胃無力症の診断や治療、そして日常生活での予防についてお話ししていきます。
胃無力症とは
胃の検査ではレントゲン撮影や胃カメラといった検査方法が一般的ですが、これらの方法で胃無力症を診断することは、実はできません。
なぜならば、胃無力症はあくまでも消化機能の低下であり、炎症や潰瘍が見つかるといったたぐいのものではないからです。そのため胃無力症の診断では通常の検査と異なった方法がとられます。
患者に通常の朝食を摂ってもらった状態で、数時間後に胃の腹部超音波あるいはバリウムレントゲン撮影を行って、胃のなかに朝食の残りがないかどうかを確認するのです。
朝食後から4〜5時間経った時点で胃に残りがあれば胃無力症を疑います。見つかった場合は、消化管の運動を活性化させる薬を用い、血糖値の変動からだいたいの消化時間を推測します。
食後数時間経っても血糖値が上がらず、その後急激に上がるようであれば、その少し前に消化が行われたと考えます。
また胃無力症ために、胃が十分膨らまないこともあります。
通常、胃に口から食物が流れ込んでくると、胃壁が膨らんでより多くの食物を貯えようとします。しかし、自律神経障害により膨らみが不十分になると、食後すぐに満杯状態になってしまいます。
一見「すぐ満腹になるからダイエットにいいじゃないか」と思えますが、ことはそう簡単ではありません。胃が満杯状態になると、胃の中の圧力が高くなってしまい、胃の内容物が溢れやすくなり
ます。
ジュースなど糖質を多く含む液体を摂っていた場合は特に要注意です。吸収が促進されるため、食後急速に高血糖を来たしてしまうのです。
こういったことを繰り返しているうちに、インスリンの効きが悪くなってしまい、インスリン抵抗性が高くなってしまうこともしばしばなのです。
胃無力症にならないために
いずれのケースも、本来の問題は自律神経の障害にあるため、消化剤や蠕動運動促進薬は対症療法にすぎません。
したがって、胃無力症を予防するには、糖尿病を悪化させないことがなによりも大切です。
普段から胃が悪い、胃の具合が気になるといった方は特に注意が必要です。
ではここで、胃無力症の予防や悪化防止のための方法をいくつかまとめましょう。
・消化の悪いものはなるべく控え、よく噛む
胃無力症になると消化機能が低下するため、当然ながら消化の悪いものを食べると余計胃に負担がかかってしまいます。したがって、硬いものや乾きものといった消化の悪いものは極力避けるか、量を控えるようにします。
血糖値を良好にコントロールし、食事の満足感を増加させるためにも野菜は欠かせませんが、生野菜は消化まで時間がかかり胃の負担を増加させます。したがって、多量の生野菜ははできるだけ避け、茹でてから食べるようにしましょう。
またよく噛むことで、中枢神経への刺激が強化され、自律神経の活動が促進されます。食事のときはしっかりと噛むようにしましょう。
・3食同じ時間にしっかり食べる
食事の間隔が空きすぎると、その分一度の量が多くなり胃に負担がかかりやすくなります。胃無力症の点からいえば、一日4から5回こまめに食べることで消化の負担を減らすことができますが、血糖値上昇の点からいえばあまりお勧めできません。やはり、毎日3食毎日同じ時間に食べることが重要といえます。
・食べてすぐ横にならない
消化に時間がかかる胃無力症になると、胃は何とか消化をさせようとこれまで以上に胃酸を分泌させます。したがって、無力症になると通常よりも胃酸が多めになります。また、胃の弾力性自体も低下するため、内容物が容易に溢れやすい状態になります。
そのような状態で食後すぐに横になると、噴門部という胃の入り口から胃液と内容物が漏れやすくなり、場合によっては食道炎を引き起こしてしまいます。食後2時間はなるべく横にならないようにしましょう。
・腹部の筋力トレーニングを行う
腹筋を鍛えることで機能の落ちた胃の動きをサポートすることができます。
一番簡単な腹筋トレーニングの方法をご紹介しましょう。
まず足をそろえて仰向けになります。そして、膝を90度に曲げ、大腿部が床に対して垂直になるようにします。手を頭の横に添えます。そこで頭をあげてへそあたりを見ます。
このとき意識を腹筋に向けるようにします。首に負担がかかるような仕方でへそをのぞき込まないようにしましょう。また、腕に力が入らないよう注意してください。もともとの筋力にもよりますが、一日5から20回程度行うといいでしょう。
今回のまとめ
★今回のまとめ
聞きなれない言葉、「胃無力症」の正体、お分かりいただけたでしょうか。
本編では触れていませんでしたが、胃無力症は糖尿病の人だけでなく一般の人の間にも増え続けています。
理由は、ストレスはもちろん暴飲暴食等。当然ながら、糖尿病をもつ人に、こういったストレスや暴飲暴食が重なれば、余計に合併しやすくなります。普段から胃の状態が気になるという方はなおのこと気を付けるようにしましょう。
・胃無力症は通常の検査方法ではわからない
・治療は投薬が一般的だが、根本的な解決方法ではない
・消化の良い食べ物を摂るよう心がけ、食後は横にならない
・腹筋をはじめ腹部周りの筋肉を強化するとよい
・日ごろからストレスや暴飲暴食を避けるようにする
→ 関連項目 ゆっくり食べて糖尿改善
↓ ↓ 下記をクリック ↓ ↓