高齢者の糖尿病対策その1

高齢者の糖尿病対策その1

現在、日本における糖尿病予備軍の数は増加の一途を辿っています。厚生労働省が実施した調査結果によると、2007年における糖尿病予備軍の人数は2,210万人に昇りました。中でも、高齢者の糖尿病予備軍の数が増加していることが明らかになっています。
なぜ、高齢者の糖尿病予備軍の数が増加しているのでしょうか。
以下では、高齢者の糖尿病予備群が増加している原因と、高齢者が糖尿病に罹患すると併発しやすい病気についてご紹介します。

加齢は糖尿病に罹患する可能性を高める

糖尿病は、体がインスリンに対して抵抗性を持ってしまい、インスリンの血糖値調節が働かなくなってしまう病気です。なお、インスリンとは血液内に溶けている糖分濃度(血糖値)が高くなった際に、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されます。そして、血液内の糖分を筋肉や臓器の細胞に取り込ませて、血糖濃度を調節する役割を持ちます。
高齢者の糖尿病予備軍が増加している原因としては、加齢による身体機能の衰えがあげられます。例えば、関節運動や姿勢の維持に関わる骨格筋の衰えにより、骨格筋細胞内に脂肪がたまりやすくなります。そして、体脂肪や内臓脂肪の上昇が引き起こされるだけでなく、体に脂肪がたまることでインスリンに対して抵抗性を持ちやすくなってしまうのです。
膵臓の働きが衰えてしまうことで、分泌されるインスリンの量が少なくなってしまい、血糖値を十分に調節することができずに高血糖状態になってしまうこともあります。
他にも、病気の治療に対する消極的な姿勢が、糖尿病患者の数が増える原因になっています。加齢に伴って病気を自覚する力が弱まってしまい、気づいたときには症状が進行しきっていて、治療を諦めてしまう高齢者の方も少なくありません。

加齢は合併症の併発率を高める

加齢による身体機能の衰えにより、高齢者の糖尿病患者の合併症への罹患率は、若い糖尿病患者の罹患率よりも高いことが分かっています。高齢者は糖尿病の三大合併症といわれている「網膜症」「腎症」「神経障害」だけでなく、非ケトン性高浸透圧性昏睡や認知症といった合併症にも注意する必要があります。

・非ケトン性高浸透圧性昏睡
非ケトン性高浸透圧性昏睡は、糖尿病患者が脱水症状を発症する症状で、血液の浸透圧が上昇します。その結果、糖尿病患者に言語障害や痙攣といった重篤な症状が起こり、最終的には昏睡状態に陥ります。死亡率が非常に高く、Ⅱ型糖尿病患者が罹患しやすい特徴があります。
高齢者の糖尿病患者が非ケトン性高浸透圧性昏睡に陥りやすいのは、高齢者になると加齢によって口渇中枢の働きが衰えるために喉が乾いてもそれを感じることができないことが関係しています。その結果として、脱水症状が引き起こされやすいからです。

・認知症
高齢者が糖尿病に罹患すると、若い糖尿病患者よりも認知症を併発しやすいことが分かっています。その原因のひとつとして、加齢による脳細胞の衰えがあげられます。
糖尿病の治療として、血糖値を下げるための糖分摂取量の制限が行われます。この治療は血糖値を下げるのと同時に、脳細胞を働かせるために必要なブドウ糖の供給量も減少させます。その結果、脳細胞の正常な活動が阻害され、やがて脳細胞の働きが衰え、認知症を併発しやすくなります。
これは、年齢関係なくすべての糖尿病患者が認知症に罹患しやすくなる原因のひとつと考えられています。ただし、高齢者は脳細胞が加齢によって衰えているため、糖尿病患者の若者よりも早く脳細胞が衰えてしまうのです。
なお、高齢者の糖尿病患者が認知症にかかる確率は、正常な高齢者がかかる確率の2~3倍ほどになることが分かっています。もしもインスリンの補給が必要なほど糖尿病の症状が進行しているのであれば、その確率は正常な老人の4倍にもなります。

アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症のふたつは、すべての認知症の中でも特に糖尿病患者に罹患数の多い認知症です。アルツハイマー型認知症の原因は、未だ明らかにされていません。ただし、β-アミロイドの結合によって形成された老人斑(アミロイド斑)が、脳内の神経細胞を圧迫した結果、その神経細胞が死滅してしまうことで引き起こされるという説が有力です。なお、β-アミロイドとはたんぱく質の一種であり、β-アミロイド同士で結合しやすいという特徴があります。
インスリンには、β-アミロイドの神経細胞への蓄積を阻害する役割があります。ただし、体がインスリン抵抗性に変化してしまった糖尿病患者には、インスリンが作用しないため、β-アミロイドの神経細胞への蓄積を許してしまいます。これが糖尿病に罹患すると、アルツハイマー型認知症を発症しやすい理由のひとつです。なお、高齢者の糖尿病患者がアルツハイマー型認知症に罹患する確率は、正常な老人の2倍となっています。

脳血管性認知症とは、高血圧や高脂質血症といった脳血管の障害が頻発したことで、脳細胞に栄養が送られなくなります。その結果、脳細胞が死滅することで引き起こされてしまう認知症です。この認知症の症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら進行していくため、症状が良好になったと感じても、実際には悪化している場合があります。また、アルツハイマー型認知症と併発する可能性もあるため注意が必要です。

今回のまとめ

高齢者は加齢によって体のさまざまな器官の働きが衰えるため、いろいろな病気に罹患しやすい状態です。そんな状態で糖尿病に罹患してしまうと、合併症に罹患する確率も大きく跳ね上がってしまいます。もしも既に糖尿病に罹患してしまった場合には、今の症状よりも悪化させないように注意する必要があります。
そこで次回の「高齢者の運動と食事」では、高齢者でも簡単に取り組むことができる糖尿病の運動療法と食事療法についてご紹介します。

→ 関連項目 高齢者の運動と食事

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