糖尿病ともっとも関連の深い臓器といえば、膵臓を思い浮かべる人がほとんどでしょう。無理もありません、血糖値を左右するインスリンを分泌するのは膵臓なのですから。
とくに1型糖尿病の方は、インスリン分泌能に障害があるためによけいにそう感じられるかもしれません。
もうひとつ重要な臓器をあげるとしたら、それは「腎臓」です。
とくに食事療法は、膵臓を守るだけでなく、腎臓をいたわりながら進めていくことが大切です。
知られざる糖尿病と腎臓の関係、そして適切な食事療法についてしっかりと考えていきましょう!
糖尿病と腎臓病の関係
糖尿病の3大合併症といえば、糖尿病性網膜症・糖尿病性神経障害、そして糖尿病性腎障害。なかでも腎障害は深刻な合併症です。
腎臓は血液が運んできた体内の老化物をろ過し尿として排泄する重要な機能を持っていますが、糖尿病のために腎臓が傷害されていくと、尿を作る機能が低下してしまいます。末期になると腎不全に陥って、生命の維持に透析療法が欠かせなくなってしまい、直接生命を脅かされることになります。
残念ながら現在、糖尿病のために腎症になり、腎不全へと移行し、人工透析を余儀なくされている患者の数は増加傾向にあります。
現在透析を受けている人の数は全国で32万人、そのうちなんと、38%が糖尿病性腎症によるもので、透析導入原因のトップを占めています。
年間新規透析患者数でみると44%にも及んでおり、徐々に増えているのがわかります。しかも、糖尿病で透析を受け
ている人のその後の経過は、ほかの病気で透析を受けている人に比べると、良いとはいえないのです。
なぜ、糖尿病が腎症を引き起こしてしまうのでしょうか。
腎臓とは、糸球体(しきゅうたい)と呼ばれる細小血管の塊が集まった組織です。この糸球体は、左右の腎臓のなかに100万個ずつもあり、これら糸球体のひとつひとつを通して血液中の老廃物がろ過される仕組みになっています。
糖尿病性腎症は、慢性的な高血糖のために血管がダメージを受けた状態です。糖尿病の3大合併症はすべて細小血管症によるものです。高血糖は、この細い血管の正常なメカニズムを長い時間をかけて徐々に変えてゆき、障害を引き起こしていくのです。
網膜にも腎臓同様に小さい血管がたくさん分布しており、これらが傷害されることで糖尿病性網膜症が引き起こされます。腎臓の場合は、糸球体の細小血管が狭くなり十分に老廃物をろ過できないことで糖尿病性腎症となります。
糖質とたんぱく質のバランス その1
糖尿病の治療の基本は食事療法です。肥満を防ぐため、そして血糖管理のために糖質の多い食品は制限されるのでしたね。
ところが、腎症が現れると食事療法は複雑になってしまうのです。
一番の相違点は、たんぱく質の摂取を制限しなくてはいけないこと。肉や魚、豆腐などに多く含まれるたんぱく質は、糖質や脂質と並び、人間の体にとって必要不可欠な栄養素ですが、なぜ腎症になるとその摂取が制限されてしまうのでしょうか?実は、腎臓の構造によるためなのです。
口から入ってきたたんぱく質は吸収され、余った分は血液中から腎臓に流れ込んでいきます。しかし腎臓はたんぱく質を通しません。
余分なたんぱく質は糸球体でろ過されて体内にもどされる仕組みです。ところが、糖尿病のために腎臓の機能が低下している人がたんぱく質を摂り過ぎると、腎臓の負担が大きくなり、そのことが腎症の進行を早めてしまうのです。
糸球体を、たんぱく質を濾し取る網(あみ)でると考えるとよいでしょう。網がダメージを受けてボロボロになってしまっているために、たんぱく質がうまく濾せなくなってしまうだけでなく、しまいには網そのものが破れてしまう状態です。そこで、弱った網を守るためにたんぱく質の摂取を控える必要があるのですね。
しかし、ここで困ったことが起こります。単にたんぱく質の摂取を減らしただけでは、指示エネルギー量を満たすことができなくなります。一日2000キロカロリー必要な人が、たんぱく質の摂取を減らしたら、その分カロリーが減ってしまいます。
人間にとって必要な栄養素は、たんぱく質・脂質・糖質の三種類です。なかでもたんぱく質は、血液や筋肉を作り出すなど、栄養素としての重要な役割があります。しかしながら、人の体はエネルギーの補給を最優先させますので、糖質や脂質によるエネルギーの補給が十分でないと、たんぱく質が本来の目的に使われずに、エネルギー源として利用されてしまいます。それを防ぐために、必要な糖質・脂質は十分に摂らなければいけないというわけです。
簡単にいえば、たんぱく質を減らした分は、糖質や脂質の比率を増やして補うしかなくなってしまうというわけです。糖質と脂質を増やすことで、たんぱく質は栄養素として少ない量で効率的に活用され、腎臓によけいな負担をかけずにすむようになります。
するとどうなるでしょう。今まで、血糖をあげないために糖質を制限し同カロリーのたんぱく質を食べるよう心がけてきたわけです。それがいきなり、腎臓にダメージがあるのがわかったら、たんぱく質を制限して糖質や脂質を取りなさいと、それまでと全く逆のことをいわれるわけです。戸惑ってしまうのも無理がありません。
「あれだけ、ごはんや甘いものを控えてきたのに、これからは食べていいの?」と思ってしまうでしょう。「それじゃあ、糖尿病はより悪化してしまうのではないの?」と心配するのも当然のことです。
実はこの矛盾はいまだにはっきりとは解決されていません。しかしながら、最近では新しい考え方が生まれてきました。
今回のまとめ
糖尿病の人にとって、腎臓というのは想像以上に大切な臓器であることがお分かりいただけたでしょうか。
・糖尿病のために腎症を患う人の数が増えている
・人工透析を受けている人の中で一番多いのが、糖尿病の方
・高血糖のために糸球体がダメージを受ける
・傷ついた腎臓をいたわるためには、たんぱく質を減らす必要がある
次回は、腎臓をいたわる食事についてたっぷりお話します。
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