糖尿病と物忘れの関係

糖尿病と物忘れの関係

日常生活の中で、物忘れを経験したことはありませんか。例えば、用事があってベランダに出たのに何をしようとしていたのかを忘れてしまったり、既にかけていることを忘れてメガネを探したり、何度か会話したことがあるにもかかわらず名前が思い出せなかったりなど、ふとしたときに「歳をとったな」と感じることもあるのではないでしょうか。
これらは単なる物忘れではなく、認知症による物忘れであったというケースも十分に考えられます。また、認知症の発症に糖尿病が大きく関わっているケースもあるのです。
そこで今回は、認知症による物忘れと糖尿病の関係についてご紹介します。

一般的な物忘れと認知症による物忘れの違い

そもそも、単なる物忘れと認知症による物忘れには、どのような違いがあるのでしょうか。加齢などによる物忘れは、生理的物忘れと呼ばれており、認知症による物忘れとは別物です。以下では、その違いを詳しくご紹介します。

《生理的物忘れとは?》
・体験したことの一部を忘れる
・物忘れをしている自覚がある
・日時や場所についてはよく覚えている
・学習などにより新しい知識を取り入れることができる
・日常生活にそれほど支障はない

《認知症による物忘れとは?》
・体験したことの全部を忘れる
・物忘れをしている自覚がない、認めない
・日時や場所についてもよく忘れてしまう
・新しいことを覚えることができない
・日常生活に支障をきたすことがある

生理的物忘れと認知症による物忘れには、上記のような違いがあります。正確に判断するためには医師に診てもらう必要がありますが、上記のチェックポイントからある程度は判断することが可能です。
「最近、物忘れが多くなってきた」「新しく得た知識をすぐに忘れるようになった」などの心当たりがある方は、上記のチェックポイントを確認し、早めに医療機関を受診することをおすすめします。

 

認知症になる確率が3倍に!糖尿病と認知症の関係

糖尿病は、現代人の多くが悩んでいる病気のひとつです。不規則な生活習慣や遺伝、膵臓の機能障害などによるインスリン不足が原因で発症する糖尿病が、実は認知症の発症率を高める病気であることをご存じでしょうか。これについては、日本糖尿病学会が主催する「日本糖尿病学会総会」でも発表されています。発表によると、糖尿病患者とそうでない方の認知症の発症率を比較すると、その差は約3倍にもなります。発症率が高まるのは糖尿病患者だけではなく、糖尿病予備群の方も同様です。
そんな糖尿病と深く関わりのある病気として、高血圧や高脂血症などがあげられます。実はこれらの病気を放置しておくことでも、認知症の発症率を高めることになります。

一体なぜ、糖尿病になることで認知症を発症しやすくなってしまうのでしょうか。

原因は血管の詰まり!神経系の障害が認知症につながる

認知症にはさまざまな種類があります。例えば、最も多いとされる「アルツハイマー型認知症」、脳の血管の病気により引き起こされる「脳血管性認知症」、アルコールの多少摂取が原因となる「アルコール性認知症」などがあります。このうち、糖尿病と深い関わりを持つ認知症が脳血管性認知症です。脳血管性認知症を患う方のほとんどは、糖尿病や高血圧に悩んでいるといわれています。

脳血管性認知症の引き金となるのが、脳内にある血管の“詰まり”です。糖尿病とは高血糖の状態が続くことで発症する病気であり、糖尿病患者はそうでない方に比べ、血液がドロドロしています。このドロドロ血液が脳内の血管で詰まると、脳内に新鮮な血液がまわらず、やがて神経系が血流不足に陥ってしまいます。すると神経系に障害が起こり、認知症を発症してしまうのです。

糖尿病はアルツハイマー型認知症の原因にもなり得る

前述したとおり、アルツハイマー型認知症は数ある認知症の中で最も発症数が多いとされています。そんなアルツハイマー型認知症の原因となる病気が「アルツハイマー病」です。糖尿病は、このアルツハイマー病の発症率をも高める原因だといわれています。

人間の体内には、インスリン分解酵素が存在しており、これにはアルツハイマー病の原因物質を分解する力があります。しかし、糖尿病患者や糖尿病予備群の方の場合、健康な方と比べて体内のインスリン分解酵素が不足しています。これにより、原因物質をうまく分解できず、アルツハイマー病を発症してしまうのです。この裏付けとして、九州大学(環境医学)の清原裕教授らが行った研究結果があります。研究は、米国立衛生研究所研究機関の基準に当てはめたとき、認知症ではないと判断された65歳以上の826人を対象に、15年間続けて行われました。その結果、糖尿病患者または糖尿病予備群の方は、そうでない方に比べ、アルツハイマー病になる危険性が4.6倍も高いことが分かりました。

他にも、50歳以上の糖尿病患者58人の脳画像を分析し、認知症の有無を確かめるという研究が行われています。アルツハイマー病を発症すると、真っ先に脳の海馬傍回(かいばぼうかい)と呼ばれる部分が萎縮を起こします。つまり、海馬傍回の萎縮が見られるということは、認知症の初期段階である可能性を意味するのです。この研究で58人の脳画像を分析したところ、31人の方のMRI画像に海馬傍回の萎縮が認められました。しかも、うち27人は萎縮が非常に進んでおり、脳全体の萎縮度合いが2倍以上であったそうです。この研究結果からも、糖尿病とアルツハイマー病に深い関わりがあることが分かります。

なお、糖尿病はアルツハイマー病の初期段階にある“認識力の低下”にも関係しているといわれています。脳を正常に動かすためには、エネルギーとなるブドウ糖が必要不可欠です。しかし、高血糖によりインスリンが不足することでブドウ糖の代謝が滞り、これを脳細胞へ届けられなくなると、脳細胞や神経細胞が異常をきたします。これにより、認識力が低下してしまうのです。

糖尿病は、1型糖尿病と2型糖尿病の2種類に分けられます。1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が破壊されインスリン分泌が行われなくなることで発症する糖尿病です。2型糖尿病は、遺伝や生活習慣の乱れなどが引き金となり、インスリンが正常に作用しなくなることで発症する糖尿病です。しかし近年では、糖尿病とアルツハイマー病の深い関係性もあり、アルツハイマー病を「3型糖尿病」と呼ぶ学者も増えてきているそうです。

上記までの情報をまとめると、以下のようになります。

・糖尿病患者や糖尿病予備群の方における認知症の発症率は、そうでない方と比較して約3倍も高い
・脳血管性認知症は、高血糖による脳内の血管が詰まり、神経細胞に障害が生じることで発症する
・糖尿病患者や糖尿病予備群の方がアルツハイマー病を発症する確率は、そうでない方と比較して約4.6倍も高い

このように、糖尿病と認知症には深い関係があります。ただ、高血糖を改善したり、インスリン分泌を正常に整えたり、ブドウ糖の代謝を促進したりすることで、認知症の発症を防ぐことは可能です。そのためにも、正しい知識を身につけ、しっかりと対策を行うことが重要です。

脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症の特徴

糖尿病になることで発症率が高まるとされる脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症ですが、これらの症状について理解している方はどのくらいでしょうか。数ある認知症の中でも、これらは発症数が高く、2種類で認知症の8割を占めているといわれています。そんな脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症には、以下のような違いがあります。

《脳血管性認知症とは?》
・初期段階であれば、物忘れや認知症があると自覚できる
・症状は一進一退を繰り返しながら、緩やかに悪化していく
・体の末端部分にしびれや麻痺が生じることがある
・精神を安定させることが難しい
・まだら認知症となる(部分的に能力が落ちること)
・ある程度の人格や人柄は保たれる

《アルツハイマー型認知症》
・症状や異常を自覚できない
・症状は緩やかに悪化していく
・初期段階のうちは、麻痺などの神経症状が現れにくい
・落ち着きがない
・全般的認知症となる(全体的に能力が落ちること)
・人格や人柄が変わり、別人のようになることがある

上記のように、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症にはさまざまな点で違いが見られます。「最近、物忘れがひどくなってきたな」と感じる方は、単なる生理的物忘れなのか、あるいは認知症による物忘れなのかをよく考える必要があります。また、認知症による物忘れの中でも、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症のどちらなのかを明らかにし、症状に適した治療を進めることが重要です。

認知症により生理的物忘れが起こることもある

認知症による物忘れを発症させる原因となり得る糖尿病ですが、実はこれにより生理的物忘れが悪化することもあるといわれています。症状が悪化すると、頻繁に物忘れをするようになる他、新しい知識や情報を記憶することが難しくなります。
認知症による物忘れと糖尿病の関係性については、アメリカの国立公衆衛生研究所(NIH)国立加齢研究所(NIA)のマーク・マットソンによる研究をはじめとし、さまざまな研究が行われています。そして、これらの研究により、糖尿病の合併症として脳の認知機能を低下させる可能性があること、認知機能の低下は学習力や記憶力に悪影響を及ぼすことなどが分かっています。

認知症による物忘れと糖尿病の関係性を示す上でポイントとなるのが、“コレチゾール”です。コレチゾールとは、人体にさまざまな悪影響を及ぼすとされるストレスホルモンの一種です。糖尿病になると、ホルモンを分泌するにあたり重要な働きをする“視床下部下垂体系”が刺激され、コレチゾールが過剰分泌されます。
コレチゾールが人体にどのような悪影響を及ぼすのか、これを実証するものとして、1型糖尿病と2型糖尿病の動物を対象に行われた実験があります。この実験によると、コレチゾールの値を上昇させることで脳の海馬機能に異常が生じたものの、コレチゾールの値を正常に戻したところ海馬は新しい細胞を生み出し、脳のダメージ部分を徐々に回復させていったそうです。海馬は、学習力や記憶力を正常に働かせるために欠かせない部分です。新しい知識や情報を記憶するためには海馬を正常に機能させることが重要で、そのためにはコレチゾールの過剰分泌を抑制することが必要不可欠なのです。

認知症や物忘れを防ぐためにはどうすればよいか

体の健康を保つためには、不規則な生活習慣をしっかり整えることが重要です。規則正しい生活習慣を整えることで、認知症や物忘れを予防することができます。そこで、具体的な予防法をカテゴリ別にご紹介します。

・食事により物忘れを防ぐ
前述したとおり、脳血管性認知症は脳内の血管に詰まりが生じることで起こり得るものです。高血糖のドロドロ血液には、血栓と呼ばれる血の塊ができやすくなります。この血栓が脳内の血管に詰まり、神経細胞が血流不足に陥ることで、脳血管性認知症を発症しやすくなります。
脳血管性認知症の発症を防ぐためには、高血糖のドロドロ血液を改善することが重要です。血流改善に有効な食品や、血栓を溶かすことができる食品を積極的に摂取し、認知症の発症や進行を防ぎましょう。ポイントは、塩分の摂取を控え、カリウムやカルシウム、マグネシウム、タンパク質などを積極的に摂取することです。おすすめの食品に、乳製品や野菜、豆類、海藻、果物などがあげられます。

・運動により物忘れを防ぐ
厚生労働省が2001年から2005年にかけて行った研究によると、認知症の予防には運動が効果的であるといいます。この研究は茨城県利根町の65歳以上の人々を対象に行われました。対象者を2つのグループに分け、双方の認知症の発症率を比較するというものです。
Aのグループには、1回数十分の有酸素運動の指導を週3~5回行ったり、血流不足を補うサプリメントを摂取させたりと、生活習慣の改善に関するさまざまな指導が行われました。一方で、Bのグループには一切の指導を行いませんでした。その結果、Bのグループにおける認知症の発症率は、Aのグループと比較して1.2%高いことが分かったのです。また、記憶力テストにおいても、AのグループがBのグループに約16%の差をつけ、好成績を収めるという結果になりました。
このことから、適度な運動は認知症の予防に効果的であるといえます。

・禁煙により物忘れを防ぐ
「喫煙はアルツハイマー病の予防になる」と聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。しかし、最新の研究では、この考え方が誤りであったことが実証されています。それどころか、喫煙をすることで脳がダメージを受け、認知症の発症率を高めるおそれがあるといわれているのです。
喫煙と認知症の関係性を示すデータとして、オランダのロッテルダムにあるエラスムスメディカルセンターのモニーク・ブレテラー博士による調査データがあります。これは1人につき平均7年間もの調査を行い、認知症の発症の有無を調べるというものです。55歳以上の約7,000人を対象に調査を行ったところ、706人もの方が認知症を発症するという結果になりました。また、喫煙者と禁煙者の発症率を比較したところ、前者は発症率が50%も高いことが明らかになったのです。

このように、日々の生活習慣は認知症の発症に深く関わっています。健康によい食生活を心掛けたり、禁煙により脳へのダメージを防いだりすることで、認知症の発症を効率的に防ぐことが可能です。

規則正しい生活を送り、物忘れや認知症を防ぐ

生理的物忘れと認知症による物忘れには大きな違いがあり、また認知症も一つひとつで原因や症状が異なります。そして、これらは糖尿病と深く関わっています。「物忘れ=加齢のせい」と軽く考えていると、実は糖尿病が原因で、気づいたときには症状が悪化していたということにもなりかねません。後悔しないためにも、生活習慣の見直し・改善を行うことが必要なのです。
そして、「糖尿病を改善するためには血糖コントロールさえ行っていればよい」というわけでもありません。中には、血糖値を下げるために食事をとらないという方もいますが、これにより体に必要なエネルギーや栄養まで不足してしまいます。単に血糖値を下げるだけではなく、体にとって健康的な生活を心掛けることが重要なのです。

医師と相談しながら、自身の物忘れの真の原因を突き止め、健康な体を目指しましょう。

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