生活習慣病のひとつである糖尿病の原因には、運動不足や食べ過ぎ、飲み過ぎなど生活習慣に関わるさまざまなものがあります。つまり、完全に予防することは難しくても、規則正しい生活習慣を心掛けていれば糖尿病に罹患してしまうリスクはある程度下げることが可能だといえます。しかし、糖尿病の原因は生活習慣に起因するものだけではありません。近年、糖尿病の新たな原因として「ストレス」が注目されています。ストレス社会といわれる現代で、ストレス性の糖尿病にならないためにはどのように過ごせばいいでしょうか。ここでは、ストレスと糖尿病の関係、そしてストレスを解消するために参考にして欲しい「3つのC」についてご紹介します。
ストレスがどう糖尿病につながるのか
ストレスと糖尿病の関係について、ある災害の事例が報告されています。大規模な地震があったその地域では、被災者の一定数が糖尿病を発症したと報告されているのです。地震の被災者が食べ過ぎ・飲み過ぎの状態にあることは考えにくく、被災したストレスから糖尿病を発症したのではないかと考えることができます。
近年の研究でも、ストレスと糖尿病の関連性が指摘されています。5,000人以上の被験者に対して行われたドイツの追跡調査(平均で13年間)では、強いストレスを感じる仕事に就いているグループはそうでないグループに比べ、糖尿病発症のリスクが45%上昇するという結果が出ました。肥満の状態にはない被験者でも、ストレスが強いと糖尿病発症のリスクが上がっています。その他、カナダの研究所で行われた追跡調査でも、ストレスが糖尿病の発症につながったとする研究結果が報告されています。
ストレスが糖尿病の発症につながるのは、血糖値を上げるホルモンの存在が原因のひとつだと指摘されています。血糖値に関わるホルモンといえば、糖尿病治療に使われるインスリンがよく知られています。インスリンは血糖値を下げる働きを持ちますが、反対の働きを持つホルモンのほうが多く存在するのです。強いストレスを受けると分泌されるコルチゾール、ストレスにより交感神経が優位になると分泌されるアドレナリンや甲状腺ホルモン、グルカゴンなどのホルモンは血糖値を上げる働きを持ちます。そして、血糖値が異常に上昇し、糖尿病リスクが高まってしまうのです。
強いストレスは、間接的にも糖尿病リスクを増大させます。ストレスにさらされているがためにタバコをやめられなかったり、本数が増えたり、暴飲暴食や睡眠不足につながったりすると、これらの悪い生活習慣が糖尿病の原因となりえるのです。これらの生活習慣はさらなるストレスとなり、悪循環を生む可能性があるので、そうなる前にストレスに対処する必要があります。
3つのCでストレスを低減させる
ストレスは糖尿病だけでなく、うつ病や双極性障害などの精神疾患を始め、さまざまな病気や体調不良につながるものです。強いストレスにさらされていると感じているなら、糖尿病を始めとするこれらの病気にかからないために、ストレスへ対処する必要があります。
さまざまなストレス対処法の中から、ここでは、精神科医で認知療法の日本における第一人者である大野裕氏が提唱する「3つのC」をご紹介します。
3つのCとは、以下の3つの用語を指します。
- 1) CONTROL(コントロール)[制御する]
- 2) COMMUNICATION(コミュニケーション)[意思の疎通]
- 3) COGNITION(コグニション)[認知]
これら3つの考え方を実践することで強い心を作ることができると、提唱者である大野氏は説明しています。コントロールとは文字どおり自分自身をコントロールすることで、コミュニケーションとは他者との会話を指し、コグニションとは自分がどういう状態にあるかを正確に把握することです。これら3つのCをベースにすると、ストレス性の糖尿病にならないためにはどのようなストレス対処法が考えられるでしょうか。
・CONTROL(コントロール)……制御する
仕事が上手く回らないとき、人間関係が上手くいかないときなど、ストレスを感じてしまう瞬間はいくつもあります。多くの方にとって、ストレスを完全に回避することは困難だといえます。
日々の生活の中で受けてしまうストレスは、「コントロール」することである程度の解消が可能です。
なぜ、コントロールがストレス対処の鍵となるのでしょうか。
逆に考えてみると、上手く想像しやすいかもしれません。ストレスを感じてしまった多くのシーンを想起してみると、何かをコントロールできなかったケースが多いのではないでしょうか。であれば、何かをコントロールすることがストレスの解消につながる、と考えることができるわけです。
例えば、仕事が上手く回らないとき、その原因が景気や世の中の変動にある場合も考えられます。
あるいは、もっと身近なところに目を向けて、自分以外の誰かの仕事が影響して上手く回らないことも考えられます。仕事というのは自分ひとりの手で回しているものではなく、必ず誰かの、あるいは何かの影響を受けてしまいます。こういった、自分の力ではどうコントロールしようもない問題が周りにある場合には、それに対処しようとあれこれ考えてもストレスにしかならないことが考えられるのです。
また、さまざまな人間関係で悩む場合にも、同様のことがいえます。上司が頑固でなかなか自分の意見を分かってくれない、部下が指示どおりの仕事をこなしてくれないといった仕事の関係や、夫婦・嫁姑などの家族内の関係、子育てや子どもの受験などのイベントには、必ず自分以外の相手がいます。相手も人間であれば、ロボットのように答えの分かりきった動きをするのではなく、自分の意思で何かしらの行動を決定しています。そのすべてを推し量ることはできないので、自分の思ったとおりの結果にならないケースも多々考えられるのです。
不景気を改善させたり、相手の行動すべてを自分の思ったとおりにしたりするのは現実的ではありません。このようなコントロールできない状況からのストレスを解消するには、自身がコントロールできるものを探し、それを制御することがあげられます。
ストレス解消の例として、以下のような意見が寄せられています。
- ■ 兵庫県 Gさん 他。■
- 私の場合は運転に限る。ドライブ。でも渋滞にはまると余計にストレスが溜まる事も。
- ■ 群馬県 Dさん 他。■
- 書道をしておりますので、精神を静め、筆を走らせます。
- ■ 山形県 Sさん ■
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ちょっと古いですが、テトリスをしまくります!
テトリスでは負けた事がないので、ただひたすらテトリスです。
いずれの意見においても、自分がコントロールできることに取り組み、それによってストレスを解消しているという特徴があげられます。この共通点は、ストレス対処法において重要なポイントといえます。
それぞれの意見について、もう少し詳しく見てみましょう。
車の運転がストレス解消になるという意見においては、運転によって車をコントロール下においているということがストレス解消につながっているという側面が考えられます。
書道においては、思いのとおりに筆を動かし、きれいな書を書けることがストレス解消につながっていると考えられます。
ゲームにおいても、思いどおりのゲーム展開に持っていけるからこそ、ストレス解消につながっているといえます。この件においては、負けたことがないほどゲームの腕前に覚えがあり、コントロールできずに負けてしまうということがないこともプラスに働いていることが考えられます。
もちろん、車の運転や書道、ゲームに興じること自体がストレス発散になっていることもいえますが、自分の得意な領域でコントロールしていることがこの場合は重要なポイントだといえます。
ストレスを解消するには趣味を見つけること、とはよくいわれていますが、それに加えて自分がしっかりとコントロールできるような趣味を探すことが大切です。そのことが、ストレス解消につながるはずです。
・COMMUNICATION(コミュニケーション)……意思の疎通
人とコミュニケーションを取ること、ひいては意思の疎通がきちんとできることがストレス解消につながります。具体的には、どのようなストレス対処法が考えられるでしょうか。
ストレスをどのような方法で発散しているか、という質問に対しては、友達と電話で話したりレストランやカフェへ食事に行ったりという回答が多くみられます。つまり、気の置けない仲間と何気ない話で騒いだり、ゆっくりと自分の話を聞いてもらったりすることがストレス解消につながっているといえるのです。このようなコミュニケーションで「ストレスが解消される」、と回答しているのは男性より女性が多い傾向にあるようです。
一方、満足にコミュニケーションが取れない状況があると、それがストレスを感じてしまう原因になることがあります。
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・こっちの考えを理解してもらえない。
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・話を聴いてもらえない
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・言いたい事が言えない。
上司と部下の間で上手く意思が伝わらなかったり、夫婦の間で言いたいことが言えなくなったりなど、コミュニケーションが上手くいかずにストレスとなってしまうケースは多々考えられます。
ただ、なかなか話を聞いてもらえない、話しても考えを理解してもらえない、そもそも言いたいことがなかなか言えないという状況でも、それを全く関係のない第三者に聞いてもらうだけでも気分が晴れることがあります。例えば、夫が忙しさにかまけて自分の話をなかなか聞いてくれず、フラストレーションがたまり、その不満を仲のいい友人に話すというシチュエーションが想像できます。「うちの主人はいつも上の空でなかなか話を聞いてくれない」「子どもの受験のことについて相談したいのだけど全然真剣に考えてくれない」などと、本来であれば夫本人に直接言わなければ解決しないことでも、口に出して友人に話すだけでもストレスはある程度和らげることができるはずです。
これは、自分の意見を言いたい、自分の主張を分かってもらいたいという欲求があり、友人など第三者に話すことでその欲求が満たされるからだと考えることができます。また、モヤモヤと胸の内に秘めていたものを口に出すことで、自分の中でもある程度の整理がつくようになるという側面も考えられます。本来話すべき相手とのコミュニケーションが上手くいかないからといって抱え込むことなく、気軽に話せる身近な人に聞いてもらうというコミュニケーションを取ることが、ストレスをため込まないためには大切です。
仲のよい人と会って実際に話すだけでなく、日記をつけることもストレス解消につながることがあります。自分の言いたいことを吐き出す、言葉として形にすることで心を整理するという意味では、日記もその役割を果たせるというわけです。この意味では、日記をつけることは自分とのコミュニケーションだと言い換えることができそうです。
・COGNITION(コグニション)……認知する
コグニションは、コントロールやコミュニケーションと比べると聞きなれない言葉かもしれません。日本語では「認知」と訳することができ、この場合は、自分自身を認めることや自分が今どういう状態にあるのかを正確に把握することを指します。この認知ができていない状態だと、自分を認められずに悪い状況を改善することもできないため、ストレスがたまってしまうことになります。
ストレスがある一定量たまってしまうと、視野が狭まり、冷静な考えができなくなってパニックのような状態になってしまうことがあります。しかし、ある程度時間がたち、心が落ち着いてからあらためて振り返ってみると、思っていたほど大きな問題ではなかったということもあります。例えば、睡眠には記憶を整理する働きがあり、ストレスによるちょっとしたパニックもある程度は整理することが可能です。このように、後から考えてみると意外となんでもなかったということがあれば、それは冷静に物事を判断できるようになったということで、ストレスも抑えられるようになっているといえます。
しかし、寝て起きればいつも問題が簡単に思えるようになるわけではなく、どうしようもなくなってしまうこともあります。そういった場合には、自分自身を正しく認知するために考え方を変えることが重要です。
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・見方を変える
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・視点を変える
まずは、自分に対する見方を変えてみる方法をご紹介します。
強いストレスを感じているとき、自分に対して自責の念を感じていたり自分の能力が足りないのだと考えていたりするのなら、それはストレスをためてしまうだけの考え方です。自分がストレスを感じてしまう状況において、自分は悪い人間だと考えるのではなく、自分はいい人間だと考えてみましょう。
例えば、仕事や家庭において人間関係に悩んでいるのであれば、自分が上手くできないから、自分が少しのことでも耐えられないくらい精神的に弱いから、などと考えてしまうことがあるかもしれません。しかし、そうやって内向きに悩んでいても、上手くできるようにはならないし、多少のことではへこたれない精神力が身につくことはないはずです。
悪いように考えるのではなく、仕事上の関係や家族として相手と上手くやっていきたいと考えているからこそストレスを受けてしまう、と考えることができます。相手のことを思いやらない人間であれば、上手くいかないことがあるとすぐに見限り、人間関係をよくしようとすることを諦めるはずです。そうなれば、確かに余計なストレスはたまらないかもしれません。そこでストレスをためてしまうのであれば、きちんとした人間関係を諦めることのできない、相手のことを思いやることのできる優しい人間であるということです。
このように、自分に対する見方を変えてみることで、ストレスのたまり方はだいぶ変わるのではないでしょうか。今の自分をしっかり認めることができれば、気持ちも前向きになり、具体的な解決策も見えてくるかもしれません。
自分に対する見方を変えることができたなら、状況に対する見方も変えることができるはずです。強いストレスを抱えてしまうということは、現在、自分にとって解決すべき課題が存在することになります。これは一見するとピンチですが、見方によってはチャンスだと捉えることができるはずです。もしも課題を解決することができれば、今のピンチを脱することができると同時に、次似たようなことがあった場合にもスマートに対応することができるようになります。
上司にひどく怒られてしまい、自分への自信がなくなってしまったとしても、課題をしっかり見つめて乗り越えることで人間としてひとつ大きくなれるはずです。そうやって状況に対する見方も変えることができれば、ストレスをバネに自分自身の糧とすることができます。
以上のような「見方を変える」ということが自分ひとりでは難しいのであれば、つらいことを相談することのできる友人や家族に素直な気持ちを吐き出してみることもおすすめです。自分がひどく惨めな人間に思えていたとしても、客観的にみてみればそうではないことが多いわけですから、きっと友人や家族は認知を変える言葉をかけてくれるはずです。
他人から受けるこういった言葉は、自分自身の認知を変えるためにとても強い力を発揮します。自分ひとりではどうしても乗り越えられそうにないのなら、誰か話せる相手に思い切って話してみましょう。
もうひとつ、自分自身を正しく認知するための方法として、「認知の歪みを正す」という方法をご紹介します。
認知の歪みとは、強いストレスにさらされている人が陥ってしまいがちな極端な思考の偏りのことをいいます。この考えに陥っている間は正確な認知が難しいため、ストレスがどんどんたまってしまうのです。
認知の歪みは主に7種類あります。
「二分割的思考」は、物事を極端なふたつの事柄に分けて考えてしまう認知の歪みです。100か0かの考えと言い換えることもでき、その中間について考えることができなくなっています。
「選択的抽出」は、自分が関心を持つ事柄にのみ目が向いてしまう認知の歪みです。もう少し視野を広げて考えてみれば別の見方が見えてくるのに、これと決めた関心事から考えが離れない状態になっています。
「極端な一般化」は、全然別のことなのに、同じことであると決めつけてしまう認知の歪みです。例えば、周りの人がどんなにアドバイスを言っても「どうせ同じこと」と切り捨ててしまうような心理状態があげられます。
「恣意的推論」は、物事を独断的に判断してしまう認知の歪みです。自分が今認識している情報だけがすべてだと思い込み、それによる推測が正しいと錯覚してしまいます。
「自己関連づけ」は、自身の過失は少しなのに状況のすべてが自分の責任だと考えてしまう認知の歪みです。すぐに自分のことを責めてしまうので、どんどんストレスがたまってしまいます。
「拡大視・縮小視」は、関心のあることとないことで捉え方に差が出てしまう認知の歪みです。関心のあることはオーバーに考え、関心のないことは思考から外しがちになってしまいます。
「情緒的な理由づけ」は、そのときの感情が状況の判断に影響してしまう認知の歪みです。落ち込んでいるとき本当はいいことが起こっても、悪いことだと認識してしまう可能性があります。
上記7つの特徴に当てはまる考え方をしていたなら、認知の歪みが起きている可能性があります。このままの状態だと強いストレス状態は緩和されず、うつ病などの精神疾患になりやすいばかりでなく、ストレス性の糖尿病に罹患するリスクも高まってしまいます。認知の歪みを発見したら、その思考から抜け出し、別の考え方はないかと探すことが大切です。
ストレス性の糖尿病にならないために
食事制限や定期的な運動などで生活習慣を改善しても、ストレスが強いと糖尿病リスクは増してしまいます。上記にてご紹介した3つのCを参考に、心身ともに健康を目指しましょう。
→ 関連項目 糖尿病の方のメンタルケア-その①「ストレス」